闇の設定と光の八百長

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 床の中央に腰を下ろし、全体を見回す。  塀二が室倉当主としての力と覚悟を見せた以上、封印妖魔たちに与えられた選択肢はふたつ。塀二に従い許可を得て封印を緩めてもらうことで自由を得る。或いは次代の室倉が不出来であることを祈る。気位が高い妖魔たちが前者を選ぶことは難しい。たまに助言を聞かされるのも自分たちのほうが格上であることを誇示したいからこそだと塀二は理解していた。 『闇によって磨かれし、黒玉の姫に気を付けよ、蔵守り』  早速意味ありげな言葉が頭に響いた。  一瞬「何のことだ?」と思いはしても動揺は表に出さない。彼らが優位に立ちたいなら丁寧に説明して情報を明らかにはしないであろうことは想像がつく。 「わかった」  なので短く答えて、塀二は腰を上げた。「わからない」とはおくびにも出さない。  蔵を出て扉を入口に錠を架けたところで、瞼をぐっと閉じて唸った。 (あんまり考えたくないけど……それって鴨居のことだよな)  闇に磨かれた姫。闇と言えば、框には妖魔闇渡が取り憑いている。長くその状態が続いたことで何か悪いことが起こっているのかもしれないと考えると、塀二は気が気ではなかった。 (『姫』って言うのもピッタリだもんな。あいつ美人だし。ちょっと荒っぽいけど……)  ニヤつく塀二が玄関に向かって歩き出すと、丁度外の門が開いた。もうひとりの居候が帰って来た。 「……ハァ……オウ、お勤めでしたか! ご苦労さんデス」  框に借りた運動着の余らせた袖を振る。深いため息を隠しても薄い虚勢がヒラヒラと揺れて見えた。  ノーニャ・ツィーグラフダフ。元々はヨーロッパを担当していた地球守りの一員で、所属していたチームが壊滅したことで逃れてきた。塀二と同じ常人を超えた力を持つ妖部で、他者の精気を吸う特性から〝吸血鬼〟と呼ばれる。  彼女が何を目的に出かけていて、そして落ち込んで戻って来たのかはわかっている。 「探しに行ってたのか」 「ンー……イエス」  短く答えて寂しげに笑う。  一昨日の襲撃で最も遺恨を残したのは彼女だ。可愛がっていた――いや、可愛がろうとしていた妹分を失った。
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