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ノーニャが貯め込んでいた瘴気を用いて町に施した結界から生まれ、室倉家に残された思念を多く吸収した室倉謹製思念体、マーガレット。彼女を失ったことは個人的な感情を抜きにしても痛切を極める。集まった浄気がまた同じように思念体をかたどってても、それはマーガレットとはまったくの別人となる。自分の命について悩み、そして命懸けで戦った彼女を永遠に失ってしまった。
それをノーニャは今も捜している。見つけたところで、とは塀二も思っても口には出さない。彼女はただ諦めるキッカケを探しているのだろう。
(それにしても妙だな……。マーガレットの時には結界を張った当日にはもう現れたのに、今度は二日経っても音沙汰なし、なんて)
マーガレットの後釜は既にどこかで実体化していることは間違いない。構造上結界の中でしか活動できないので町内にいるはずだ。どういう思念を集めてどこでどうしているのか。意思エネルギーの中でも好感情である浄気を基にするとはいえ、人々の生活の中ではやはり異質となる。トラブルを起こさないとは言えない。
その辺りを考えているうちに、もうひとつ気になることが思い浮かんだ。
さっき塀二が聞いた妖魔のアドバイスが、ノーニャも当て嵌まる。
(こいつは長年圧縮した瘴気を抱えてて、攻撃力に換わるくらい飛び済まされてた。〝姫〟って言う部分も、まあ、いいんじゃないかな。でも、だとしたら『気を付けろ』ってのは、どういうことだ?)
闇渡という別人格を抱えている框と違い、もしノーニャに何かあるとすればそれは当人が企んでいるということになる。戦場から逃げ出した奴に今更野望があるだろうか、と塀二は疑いを決め付け切れずに訝しんだ。
わずか数日の付き合いとはいえ苦難を共にした間柄に不審を抱きたくはない。
(いやでも用心してナンボの室倉としては……うう~ん)
悩んで唸る塀二の眉間を、不意にノーニャが人差し指で突つく。
「そうやって考え込むほんのちょっぴり、身近な人に気を配るべきと思うデス」
自分こそマーガレットのことで精一杯のくせに、そんなことを言ってほほ笑む。
何について言っているのかはわかったので、こんな善良な彼女を疑った己を塀二は恥じた。もしかすると疑念を与えて仲違いされることが妖魔たちの目的だったのかもしれない。
◇
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