5人が本棚に入れています
本棚に追加
翌朝、運んでもらった朝食を胃に収めたあとで当然のように登校の支度をしていた塀二を框が叱り飛ばした。靴下を履こうする姿勢で痛くて固まっていた塀二を発見するなり、布団の間へ押し戻しキツイ視線で威圧する。
「あんたいい加減にしなさいよ! 気絶しないと休まないって言うなら、いっそのこと……」
涙目で振り上げられた握り拳を見て、塀二は冷徹な裁きが下る前に降参する。
「オーケイ、わかった。落ち着いて話し合おう。俺は話せばわかる男だ」
「もう充分話したつもりなんだけどサ」
「だから昨日も言ったけど、俺が学校行かねえとお前まで休むだろ?」
反論に框は拳を下ろして渋い顔をする。不満が聞こえるより先に言葉を続けた。
「看病が要らないわけじゃないけど、別に病気ってわけじゃないんだ。だからお前は学校に行って、授業のノートとか取って来てくれ。頼むよ」
単に突き放すのではなく、頼みごとをされたことでやっと框は納得して渋々ながら頷いた。
「……わかった。じゃあお昼ご飯だけ用意して、飲み物とこっちに置いとくから」
「ああ、ありがとう。もしそれ以上世話を焼かれてフルーツ盛りでも出してくるならありがた過ぎて寝床から飛び出して登校するからな」
思念を呼んだわけではなく、経験から先回りして注意しておくと、框はギクリと身を震わせてつまらなそうな顔をした。
「電話するから、スマホ枕元に置いときなさいよね?」
しばらくして制服に着替えた框がやはり大皿に果物を乗せて持ってきたので、塀二は寝床から飛び出す決心をした。
◇
体の軋みをこらえどうにか着替えを済ませたあと、框の影に宿る闇渡が遠ざかっていることを確認し遅れて登校しようという段になって、ノーニャのことが気になった。
(ひと声かけておくか。出かけるようなら鍵を預けておいたほうがいいかもな)
朝食は自室だったので今朝はまだ顔を合わせていない。室倉の知覚で気配をたどるとノーニャは縁側で呆けていた。季節が季節なら鳥が巣作りを始めそうなくらいあんぐり口を開けどこを見るともなく庭へ視線を投げ出している。
薄着で寒風に身を晒す点は丈夫な妖部だからいいとして、その精神状態については不安が残る。明らかにマーガレットを失った喪失感が尾を引いている。
最初のコメントを投稿しよう!