序章 月島秋人の奇行と古代デルミア人の都市の発見について

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 その場合、まずは無線に「クトゥルフだ!!」と叫ぶ事になるのだろう。その後、定石通りに逃げようとするが、突如深海に横たわっていたクトゥルフが目を覚まし、ゆらゆらと揺れる蛸の足みたいな髭のようなものの間から、二対の黄色い光(新橋の想像ではクトゥルフの目は黄色い光を放ち、深海では強い輝度を持っている。もしかしたら観測された発光現象はクトゥルフが目を開いた事が原因なのか?)が漏れて、新橋の視界を奪うのだ。  次の瞬間にはノーチラスは粉微塵に砕け散り、新橋の体は水圧によってぺしゃんこになっている。その脇を悠々とクトゥルフが泳ぎ、或いは歩いていく(待てよ!地震はそれが原因か?)。  そして新橋の死は、海底の地震活動に錯乱した末の事故死で片付けられる。暫くはそうだが、少し経つと蛙のような特徴のあるインスマウスの住人が太平側のあらゆる砂浜に上陸し、死後の世界があったならそこから俺は高見の見物を決め込む。  一気にそこまで空想を広げてしまった新橋は、周囲の確認を疎かにしていた。  だから、突然鳴り響いた接近警報に、思わずちびりそうになってしまったし、明かりの中に突然ギラリと輝くものが入り込んできた時には、それの形が人の手そのものだったので「ぎええ!!」と蛙の潰れた時のような声を出してしまっていた。  オープンのままの無線から『なんだ!どうした!』と切迫した声が割れんばかりに応える。  先程の連想と、無機質な銀色の手は、意識的に見ないようにしている海の神秘(新橋にいわせれば恐怖の対象)の一つが直結し新橋は「ニンゲン!」と無線機に向かって怒鳴るとともに、ノーチラスに急上昇をかけていた。  一刻も早くこの海域から立ち去りたかった。この海域に入ってから、ここはダメだ、と本能が危険信号を灯しっぱなしだった。  それでも任務だと言い聞かせてみたが、不穏な連想の連鎖と、海底に存在するはずのない無機質な巨大な手が眼前にそそりたっていれば、新橋はプロの誇りすらかなぐり捨てていた。  いや、待てよ?無機質だと?それにそそりたっている?
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