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普通、そういうものはフワフワと漂っているものではないのか?
ほんの少しだけ冷静さを取り戻した新橋は、それでも恐怖に震えながら、少しずつノーチラスのライトを上に向けていった。
と、ノーチラスの船体が小刻みに揺れた。海底地震だ。もう慣れたはずのその震動に再び情けない声を出した新橋に、先程から応答を求めていたらしい無線が緊迫度を増した。
うるせえ。黙ってろ。
艇に異常は無いかとさっとモニターを確認したが、特に異常はない。
その僅かな時間の間逸らしていた視線を再び深海に向けた。
そこには先程までの白い腕はなかった。瞬間的に開いた毛穴から脂汗が滴り落ちる。
本能的に周囲にライトを振った新橋は、少し離れたところに先程とは異なる角度で、その白い腕が照らされるのをみた。
どうも少し流されたらしい、と確信は持てなかったがそう理解した新橋は、今度は少し離れたお陰で、それの肩にあたる部分までを見る事が出来た。
ライトを少し上に向けた。
黄金の輝きが深海に走った。
「人工物だ。巨大な石像がある」
深海の暗闇のなか、それは人工の光の淡い白の中で、その偉容を誇っている。
ちらりと視線を横のスクリーンに向けた新橋は、今度こそ開いた口が塞がらなくなった。
海底に、都市があった。
それ自身が淡く発光するその都市は、まだ砂煙に埋もれているが、確かにそこには都市がある。
立て続けの地震活動が、悠久の昔に沈んだ都市を、人類の目の前に姿を現した。そして、新橋武夫は、人類代表の誉れあるその大任に任じられたのだ。
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