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「…普通に言ってください…」
「ごめんねっていう」
日比谷さんは自分のケーキをフォーク取り、おれへ差し出す。
「直紀くんのケーキ、美味しそうだったんだ」
同じケーキだろ、という言葉は、口に押し込まれたケーキによって発することは出来なかった。
また口の横についてしまった生クリームを、舐められる前に指で拭き取る。
美味しい生クリーム。
ティッシュで拭いてしまうのも勿体なく思えてしまう。
少しだけ悩んで、生クリームのついた指を口に含んだ。
シャッター音が聞こえたので、見れば皐月がケータイを構えていた。
文句を言おうとすれば、ゆらりと影がかかる。
上を見上げると日比谷さんが立っていて。
おれ側に来たと思えば、生クリームのついた手を取られる。
やっぱり、舐めるのはまずかっただろうか。
「直紀くん、美味しいっていう」
ペロッと、生クリームを舐められた。
日比谷はおれの指を口に含むと、すでに生クリームなんてないはずなのに、舐める。
必要以上に、舐めてくる日比谷さんに、ムズムズとした感情が沸き上がる。
「…んっ、」
おれの、漏らした声に日比谷さんはおれの目を見て不適に笑う。
「やっ、やめ…っ!」
「美味しい…。もっと、食べたいな」
日比谷さんはケーキに手を伸ばし、掬うとおれの口へ突っ込んで来た。
生理的な涙が浮かぶ。
「…んぅ」
指を動かされ、なんとも言えない気持ちだ。
せっかくの美味しいケーキの味が、分からない。
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