まえがき

2/248

7人が本棚に入れています
本棚に追加
/248ページ
   出会い  午前3時30分頃、突然携帯電話の呼び出し音「川の流れの様に」が厳かなメロデーと共に寝静まった部屋全体に響き渡りました! 「うわー!ああぁ!なんや!・・ああぁ!寝過ぎた!遅れる!」真盛憧心(まさかり、どうしん) は慌てて飛び起き枕元の携帯を鷲掴みしにして耳に押し当て、 「ハイ!真盛ですが!ハ、ハイ!す直ぐ行きます!ハイすみません!」  此の古臭い名前の持ち主は新聞配達を始めてから足掛け6年目に入りますが満70歳を過ぎた高齢者にしては御蔭さまで健康そのものです、今朝は、まるで大きな地震にでも襲われた様な慌て様で新聞販売所に、軽四ババスに乗って向かいます。 「一体何を寝惚けとんのや!他の者はとっくに配達に出て居ると言うのに!お前は呑気に寝込んどる!本間にもう!早よ行け!ボケ!」  憧心は新聞販売所の主人に「こっぴどく」叱られながら自分の担当の分量を車の助手席に積み込んで、通い慣れた道へと出発致します。 「何もあそこまで怒らんでもええやないか!自分はどんなけ偉いと思とんのや!昨夜(ゆんべ)は奥さんと喧嘩でもしたんか本間に・・あの・・糞爺が!・・ああぁ・・あかん・・私も糞爺や他人の事は言へやんわ」  車を運転しながら大声でぼやき返して居りますが勿論主人には聞こえません。 「何も気に入らんから言うてあそこまでぼやく事は無いやろ、6年に成るけど寝過ぎたんは今日が初めてやんか・・アホ!」  まだ憧心は気が収まらんのか未だぼやいて居ります、山間僻地を担当して居る関係で道路は狭くおまけに砂利道の所もあり若し対向車でも有れば、対向するのに難儀な所が多いのです、一番嫌な難所は誰が言ったか知りませんが「夢見峠」と言う難所です、丁度新聞を半分程配り終えた頃、此の「夢見峠」に差し掛かるのです。
/248ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加