24711人が本棚に入れています
本棚に追加
「豆潰れまくってんじゃん……、痛くないの!?」
腕を握って、悲痛な表情をする秋奈。
最近のナツメはなにかに取り憑かれたように弓を引いていた。
今までどれほど無茶をして弓を引いてきたかは、このボロボロの手と、頬に残るミミズ腫れが物語っている。
「こんなになるまで……」
今更加減が分からない訳でもなし。一体彼女に何があったのか。
しかし、ナツメは隠し通せるとでも思っているのか、愛想笑いをしながら秋奈を落ち着かせようとしている。
「平気だよ。そこまで痛くないから、ほんと。ちょっと今度の選抜に向けてさ、わたしも頑張ってみようかなって思ってたんだ」
今から頑張れば少しは強くなるかなって、でもやっぱそこまで甘くないよね。
言いながら手をひらひらと振る笑顔は完全におかしい。
下手くそな嘘をつくなと、突っ込みたくなった秋奈は、代わりにナツメを女子部室へ強制連行した。
「いたっ」
消毒液を塗られて、柔らかいテーピングで固定されると、今頃になってナツメの腕に痛みが走った。
秋奈の処理は完璧で、手慣れたようにナツメに応急処置を施す。
「流石、看護志望だね。秋奈……」
「まったく。つべこべ言わずに肩も出す、あんたどんだけ引いたの、肩の筋肉痙攣してんじゃないの!」
叩かれて、肩にも鈍い痛みが。最近弓を引いた後のケアがなっていなかった所為だと秋奈。
「あのね、なに焦ってるか知らないけど、弓道はいきなりやったって進歩しないんだからね、逆に肩壊すだけ。あたしはよーく心得てるんだから、無茶して肩ぶっ壊したら、お終いなんだからね」
「うん……そうだよね、ごめん。心配掛けて」
「ほんとだよ」
「自分でも、無茶してるなって、薄々気づいてた」
秋奈が出された右肩に優しく湿布を張ってやると、ナツメがぽつりと呟く。
「じゃあ、なんで」
「じっとしてられなくて。じっとしてると、余計なこと考えそうで、怖くて」
だから……。とナツメは付け足した。
最初のコメントを投稿しよう!