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全てを見届け、そして役目を果たした彼は、故郷であるイギリスの、生前に馴染み深かった小さな教会を訪れ、足を止めたていた。 朝日を通した色鮮やかなステンドグラスの光を浴びて。 祭壇の前にて膝を折り、祈りを捧げ、人間だった頃のことを思う。 「――ようやく来たか。我らが同胞よ」 扉の開く音もなく。 礼拝堂に重たげな革靴の音が響き渡る。 それに気が付き、彼は静かに目を開き、立ち上がった。 「いつまでそんな格好をしている」 無垢な表情で振り返る彼に低い声は嗜めるようにその姿を指摘した。 「ちょっと……名残惜しくて」 肩を竦め、素直に彼が返すと。 革靴の音は止まり、浅い溜め息が吐かれた。 「情が移ったか」 「まあ、そんなところ」 「相変わらずだな」 「でも、もう気がすんだから。そっち、戻るよ」 そうは言いながらも青い瞳を寂しそうに細めて、彼は射し込んだ鮮やかな光を受けて歩む。 踏み出した足が床に降り立ち、光の中を潜り抜けた時。 死に際と同じ服装でいたはずの彼は、全身黒一色の上質そうなスーツを身に纏っていた。 「ヒサシブリだなあ、これ」 窮屈そうに首元のネクタイを弄くり、へらっと相手に笑って見せる。
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