第十六幕 かごめ唄

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「この埋め合わせは、ちゃんとするから!」 「いや、別に、ナツメを責めてる訳じゃ……」 「うん、けど、なぁ~」 薬の匂いが充満した病室で三人は唸る。 一体誰がこの事態を予想できただろうか。 「まーさか」 「夏休み最後の一週間に」 「……盲腸になるなんて……」 そう。つい先日発症した盲腸炎の治療の為、ナツメは今現在、都内の総合病院の小さな病室で入院生活を送っていた。 盲腸。またの名を虫垂炎。 初期症状は主に鳩尾(みぞおち)、右下腹部の痛み、発熱。 触診、採血、エコー、CTと、無駄に長い時間を掛け、検査を次々に受けた結果。 特に聞いて驚くこともない、ただの盲腸だと、何故か満面の笑みで医者に宣告され、迷う間もなくナツメはその日のうちに入院する手続きを余儀なくされた。 その翌日に最先端の医療技術による手短な切除手術を行い、現在に至るというわけだ。 あの化け物屋敷騒動からほんの数日後に起きた出来事だった。その時は気にも留めなかったが、まさか入院することになるなんて。 勿論、盲腸炎といえば悪くなった臓器を取り除けば良いだけの、早期発見ならそこまで深刻にはならない病気である。今の医療技術ならば手術すれば確実に治る。 故に手術後の経過を見て特に問題がなければ一週間前後で退院が可能なのだ。 早めに医者にかかったのは正解だった。不幸中の幸い、と思いたいそんなところではあるが……、三日前に切り開かれた患部を押さえながらナツメは壁に張られたカレンダーを見やった。
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