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「え、あれ。蛍(けい)?」
ドアの端から顔だけを覗かせたてきたのは、中学一年の弟の蛍だった。
気がついたナツメは時計を見やり、咎めるように言う。
「明日から一週間クリスマス合宿なんでしょ?寝なきゃだめじゃない、寝坊するよ?」
「あの、……眠れなくなっちゃって」
「どうしたの?」
「ちょっと……ねーちゃん、今、すこし話、いいかな……」
普段家の中ではヘラヘラとして明るい弟が、何故かこの時いつもとは様子が違う暗い表情をして立っていた為、ナツメはなにがあったのかと戸棚を閉めて、彼をリビングのソファーに座るよう促し。
冷蔵庫の扉を開けた。
「はい、あったまるよ」
マグカップに注がれたホットミルクを寝巻き姿の弟の前に置き。
ガウンを羽織ったナツメも同じように隣に座る。
しんと静まった部屋に時計の秒針の音だけが響き。カップの中の白い湯気がゆらゆら揺れる。
「なんか、怖い夢でも見た?」
明らかに元気の欠片もない弟に、思い当たる言葉をそれとなく投げかけるも。
彼は、両手で携帯電話を握り締めたまま。下を向いている。
「蛍?」
よく見ると、弟は小刻みに震えていた。
「あ、の……ねーちゃん」
「うん」
「その、もしかしたら、信じて、もらえないかもだけど……」
「うん、いいよ、話してごらん」
この辺りで、「なあんてね!うっそだよーん!」とふざけて笑わないということは、深刻な悩みなのだろうとナツメは知った上で、彼の念押しを受け止めた。
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