24715人が本棚に入れています
本棚に追加
だとしても今は、不安な顔だけはしてはいけない。
「蛍、大丈夫だよ。泣かないで」
困惑を悟られぬように宥めながら、ナツメは弟の顔を上げさせ、笑ってみせる。
「こんなのはきっと、でたらめだよ」
「でも、だけど、……ほんとうに、ほんとうかも」
「もしそうだったら、その時はねーちゃんがなんとかしてあげる」
「ねーちゃんが……」
「うん、だから蛍は、明日からの合宿には、わたしの携帯を持って行きなさい、蛍のはわたしが使うから」
その方が怖くないはずだから、と。
ナツメは震える細い指に、新調したばかりの携帯電話を握らせる。
「そっ、そんなことしたら、ねーちゃんがッ……!」
「わたしは大丈夫、任せて、絶対になんとかする。それに、調べてみたら嘘だったってわかるかもしれないからね。大丈夫。大丈夫だから」
頭を抱き、背中を撫でつけ。
何度もそう繰り返す。
「ねーちゃんは、いいの、それで……だいじょうぶなのっ……ッ」
「うん。全然平気、もしなにかあったって、わたしが倒しちゃうから」
「そんなことできんの」
「できるできる、ねーちゃんは強いもの、返り討ちにしちゃうよ。……だから安心して」
弟が怯えて泣いているなら、姉の自分だけは毅然としていなければ。
壁に飾られた家族写真。
今は亡き母がそこから笑いかけている。
母親が他界してからずっと、蛍は父親と二人で守ってきた。
だから、今だって。目に見えない恐怖からでも姉として、弟を守らなけば。
渦巻く不安を掻き消すように、ナツメは思い、落ちた弟の携帯電話を握り締めた。
最初のコメントを投稿しよう!