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明くる朝。
ナツメは何事もなかったかのように、出社する父親と、自分の携帯を持ちまだ不安を拭い去れていない顔をし合宿に出かける弟を玄関の先まで見送った。
家事を一通りこなし、エプロンの紐を解き、時計を確認する。
昼前。まだ時間は充分にある。
リビングのテーブルには弟から託された携帯電話。
昨晩、眠る前に数日の間で使いそうなお互いのデータはほぼ移行させてあるのでもしもの時にでも難なく対応できるようになっている。
秋奈、冬吾、スノウ。
勿論、春一の連絡先も入っている。
「ハルさん……」
携帯を握って、開いてみる。
だが、それを直ぐに閉じてポケットに仕舞うナツメ。
だめだ……。
そんなに簡単に春一を頼ってはいけない。
会話ができたとしても、自分達は関係を修復したわけではないのだ。
ここで春一に縋ろうとするのは、虫が良すぎるというものだ。
それに……。
恐怖に囚われて、噂ばかりを過信しすぎてはいけない。
彼の言う通りだ。
今何が起こっているのか、落ち着いて考えて、調べてみる必要がある。
春一が言っていたのがあのメールのことならば、彼もきっと今この時でも、解決策を追っているはず。
だったら……。と、身支度を整えたナツメはコートを羽織り、ブーツで足を固め家を出ると、木枯らしの吹くなか、情報を求め隣町を目指した。
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