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掲示板はその書き込みを最後に途絶えてしまっている。
時間帯を見ると、この討論はつい数時間程前のやりとりだったことがわかった。
だが、わかったことと言えばそれと、『キリコさんのメール』の曖昧な情報くらい。
ネット上で対立し合う意見。
送らないと死んでしまう、知人が死んでしまったと主張する者と。
送らず無視すべき、送らなくても死ななかったと豪語する者。
どのサイトを覗いてもそうだ、意見がぱっくり割れてしまっている。
これではどちらを信じていいのかわからない。
信じたい方と言えば後者に決まっているのだが。
春一が依頼として今尚追っている事案だ。なにもないとも言い切れない。
話によれば、二通目のメールが来るというのは今日の夕方頃。
それがなければ、この張り詰めた不安や緊張から解放される。
我ながら馬鹿げているとは思うものの、ネット上でのやりとりの影響を受けてしまった所為で少しばかり怖いところもある。
だが――、春一の言葉を思い出せば、落ち着いて構え直せるだろう。
たいして役に立ちそうにない情報を纏め、拭い去ることができなかった疑心を抱えたまま、ナツメは個室の子機で退室の旨を伝え、帰宅することにした。
ネットという架空の電子世界で投げ交わされる、言葉と情報。
知らない情報を手に入れるのは至極簡単だが、それが全て本物だとは限らない。
誰にでもなれるし、些細な嘘やデマを流しても誰にも咎められることなく流れていく。
(わからない……)
何が嘘だ、何が真実だ。
今一体何が起きている。
コートのポケットの中の携帯電話を握り締め。
ナツメはバスの窓に反射した自分の顔を見つめ問いかけるように。
出ない答えを、頭の中で探した。
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