第二十四幕 チェーンメール 後編

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「――さむ……」 あと数分で午後七時になる。 ナツメは行く前より数段重くなった足を引きずって、自宅玄関に辿り着いた。 父親の靴も、弟の靴もない。 真っ暗な玄関先。 暫くは誰も出迎えてくれない、ほぼ一人きりの広い家に少しの心細さを感じて、ナツメは明かりを点け、リビングに直行し、自宅の子機を勢いよく取ると。 自分の新品の携帯電話へとコールを掛け、耳へ宛てた。 「もしもし――、蛍?わたしだよ、……うんそのこと、うん……大丈夫。もう心配しなくてもいいよ、やっぱりあれは噂だったんだよ。そう、メールも来てないし、もう不安に思うことないから……アハハ!泣くな泣くな~、みんな変に思うでしょ!」 メールは結局来ていない。 たったそれだけ。 だが、それこそが悩みの全てを解決してくれた。 やはりそう、こうなること。 そうなるってわかってた。 と、調子のいいことを思っていても、正直帰るまで不安で、携帯を両手で挟み、どうかどうかと拝んだことは、誰にも言えない秘密だ。 向こう側で安堵に涙する弟を元気付けてやりながら、ナツメも顔が見えないのをいいことに、ソファーに飛び込み、苦笑いをする。 弟同様、心底安心してしまったのだ。 高校二年生の自分でも少し怖がったくらいだ。中学一年生の彼はこの時までどれだけ恐怖していたことか。 『よかった……やっぱり、そうだよね、あるわけないよね』 「うん、だからさっさと忘れてた、合宿に集中しなよ」 『ねーちゃん、ありがと……、ごめん、あと、携帯、買ったばかりだったのに』 「蛍が元気になってくれるならいいよ」 そう言えば蛍は照れ臭そうに笑った。 安心してくれたみたいだ。 『ねーちゃんは、平気……?』 「なにが?」 『なんとも、ない?……だいじょうぶ?……このあと、なんかあるかも』 「やだもう、変なこと言わないでって!わたしは大丈夫、心配しないで」 言ってナツメは電話を切った。
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