第二十四幕 チェーンメール 後編

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「ぬぅうぁあぁあああ!負けたああぁ!?」 仙道寺の離れ、春一の私室で断末魔のような悲鳴が上がったかと思えば。 自称春一の兄貴分、見習い僧侶の梓は頭を抱えながら畳目掛けて派手に転がっていた。 「春一さん!えっ、え?!なにこれえ……!なんで負けてんの俺!今回は頑張って四隅制覇したのに!こんなっ……こんなのって!」 梓が壊れたように叫びながら指差すプラスチックボードには8×8のマス目の上にびっしりと白と黒の石が乗せられていた。 白い石が四隅のカドを陣取っているものの、勝敗の行方は見ての通り、石を数えるまでもない。 ボードに乗った白い石は四隅に乗った四つのみ、それ以外は全て黒で占められている。 白と黒の石を使って相手の石を挟み、ひっくり返して、自分のものにするという、陣取りゲームの一種。一般的に『リバーシ』『オセロ』などと呼ばれる、二人対戦用の盤上遊戯。 梓が倉庫整理の末に埃の中から掘り当てたそのゲームセットを持って春一の部屋に忍び込み、対戦を申し込んだのが事の始まりだった。 「最近なんだか忙しいみたいですけど、息抜きと思って俺と遊びません?」 と、誘ってきた梓に、夕食を済ませた春一は暇潰しになるだろうとそれに応じた。 「よーし、やるからには春一さんでも全力で勝たせてもらいますよお!」 そう宣言した梓は勝つ気満々だったようだが。 その結果は見事に惨敗。 結局五回中一度として梓は春一から勝ちを取ることができなかった。 流石にこの成績は酷過ぎると畳を転げ回る梓に対して春一は石を弄び欠伸をしていた。 「四隅取って負けるって……こんなのありですか……」 「まあ、こういうやり方もあるさ、オセロっていうのは攻めるんじゃなくて、相手を敗北に誘導していくものだからね」 「ハッ、まさか……俺が四隅取れたのも春一さんの策略……?!」 梓が素早く顔を上げれば、春一は目を細め、小さく首を傾けた。 「でたよ!鬼畜モード!」 「鬼畜モード?」 「ウワァぁあ!たかがオセロだと思ってたけどめっちゃ悔しいぞこれ!」 負けたまま引き下がるのは、年上の先輩として格好がつかない。 「春一さん!もう一戦、もう一戦やりましょう!」 やけくそと言わんばかりに、再戦を申し込む梓。
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