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「ごめん、二人とも」
せっかく計画したのに、二人の楽しみを自分が奪ってしまった、そう思うと後ろめたさが心の中に湧き上がる。
しゅんと肩を縮めながらナツメが言えば、秋奈と冬吾は顔を見合わせて笑い、同時にナツメの頭を撫で繰り回しにかかった。
「ばーか、俺ら以上に辛気臭い顔してんなよ。気にすんな、お前の所為じゃねぇし」
「そうだよ、それにもの凄い難病とかじゃなくて良かったじゃん」
「まぁこの計画は冬に持ち越しって事で!」
だから早く治せとばかりに、二人は春より少し伸びたナツメの髪をくしゃくしゃにした。
「ありがとう。秋奈、冬吾」
「てー、訳で。どんよりムードお終いな!」
「冬吾!ここ一応病院なんだから、あんた騒がないでよね、もう……」
景気づけにかパンパンと柏手(かしわで)を打つ冬吾を秋奈が咎め、ここで話は一旦区切られる。
小さい頃に風邪をこじらせてしたことがあるので、今回が初めてではないにしても。慣れない入院生活を送る中で何よりもナツメが苦痛だと思っているのは、兎に角することが何も無いということで。
同じ病室の人とは少し挨拶をする程度、看護婦達は仕事で忙しく話し相手にはなってくれない。
だから誰かが見舞いに来てくれなければ、本当におかしくなってしまうくらい退屈で退屈で仕方ないのだ。
「ほら、この前借すって言ってたラノベの新巻とゴンドラボール全巻持ってきてやったぞ、ありがたく読め!」
「宿題の答え合わせも済んだし、これで退院しても焦らずに学校の準備できるね、ナツメ」
だが、こうして二人が会いに来てくれたお陰で、入院生活で暗くなりがちだったナツメの心はすっかり晴れ。
少なからず感じていた寂しさを埋めることができた。
時間に限りはあるにしても、それでもナツメは嬉しくて、味気ない一日を潤してくれる貴重な一時を楽しんだ。
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