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「会いにきてくれてありがとうね、二人とも、楽しかった」
「おう」
「早く治しなねー、ナツメ!」
手術したばかりの下腹部の痛みを笑顔の下に隠して、病院の入口まで見送り、ナツメは去っていく冬吾と秋奈に手を振った。
「ふぅ」
二人が交差点を曲がって見えなくなると、ナツメは小さく溜息をついて、来た道を引き返すべくエレベータに戻った。
見舞いに来てもらうことはとても嬉しいのだけれど、何故だかその後は尋常じゃない疲労を感じるのだから不思議だ。そう思う反面、もう少し居て欲しかった、二人と話していたかったとも思ってしまう。
入院とはなかなか疲れるものだと、ナツメはエレベーターの手すりに寄りかかりながらひとりごちる。
「はやく退院したいなぁ」
ガラス張りの開放的なエレベーターが、ゆっくりと上昇していく。
外の駐車場、入ってくる自動車、次々と病院の入口に向かってくる面会客、既に診察や面会を終え、帰っていく者。
中庭の噴水近くで遊んでいる子供、車椅子の老婆に付き添う白衣の看護師。
松葉杖を抱えてベンチに座る青年。木陰で静かに本を読む少女。
上からだとよく見える。ジオラマみたいで少し面白い。
そんないつもと違った景色にナツメが興味を持ち始めた頃。
エレベーターが目的地の到着を知らせ、扉が開いた。
もう少し中庭の様子を見ていたかったと若干名残惜しさを感じながら、ナツメは体を引きずるようにのろのろとエレベータから出て、自分の病室に向かって歩いていく。
ナツメの病室は五階の外科病棟の廊下を左に曲がって三つ目の病室。
心なしか足取りが重い、体がしつこく疲れを訴えて休みたがっている、早くベットに戻って安静にしていよう。
そう思った時。
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