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空っぽになったカップがカチャンと更に重なる音と同時に
カランコロン…
店の寂れたドアが、聞きなれた鐘の音を鳴らしながら開いた。
入って来たのはもちろん、
「マスターさん!!」
オレが声を掛けるよりに先に、菜奈ちゃんが叫んだ。
マスターは買い出しに行くって言ってた割に、持ってる荷物は少なく
ただ小さな紙袋を片手に抱えていただけだった。
「おー、いたいた!珍しい席にいるなぁ」
そして、カウンター席にオレの姿を見つけるなり、笑いながらこっちへ向かってくる。
菜奈ちゃんはマスターの言葉の意味が分からないのか、キョトンとした顔でオレ達を見ていた。
しかしオレは、このマスターの言葉で確信していた。
やっぱりこの不自然な全ては、マスターからの
“待っていたら…”
という意味だったのだという事を。
「小賢しい真似しますよね、マスター?」
「はは。でも君なら僕の意図が分かるんじゃないかと思ってね」
ちょっとした嫌味を込めて言ったのに、それを儚くも笑って流された。
しかも逆にちょっと嫌味混じりで返されたし…。
一瞬顔が引きつったオレに、マスターはきちんと気がつき、
そしてまた面白そうに「ははっ」と笑った。
。
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