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「君、頭いいでしょ?」
そう言いながら、マスターは
カウンター奥のキッチンへと入っていく。
マスターはオレの名前を知らない。
オレもマスターの名前を知らない。
だからいつもオレの事を、マスターは“君”と呼び、オレはマスターを“マスター”と呼ぶ。
30代後半…くらいにしか見えない、実は40代後半だと言う渋いおじさん。
「さぁ?でもその紙袋の中身が豆だっつーことくらいは分かりますよ?」
さらに続くマスターの嫌味な質問に、オレはニヤリと笑い返してやった。
「ご名答!」
それにマスターは満足そうな顔を返す。
マスターは豆の話を振ると、途端にオモチャを手に入れた子どものように笑う。
脱サラして好きだった珈琲の知識を生かした、この喫茶店を始めたのだと、通い始めた頃聞いたことがある。
生まれた時から職業が決まっていたオレ。
ある意味、一生サラリーマンであるオレには、まったく無縁な話だ。
確かに少々喰えない人ではあるけれど、
意外とオレは将来…
こんな人に成りたいと、マスターに憧れているのかもしれない。
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