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「実は知り合いから、珍しい豆が入ったって連絡が昨日あってさ。急遽貰いに行って来たんだ」
事情説明をしながらマスターは早速、カウンター奥で作業をし始めた。
ガサゴソと豆が取り出されたのであろう紙袋の音。
それから手作業のミルを準備する音。
さっきまでとは全然違う意味で、胸が高鳴った。
「もちろん、飲んでくよね?」
オレはそんなマスターの言葉を待っていたかのように即決で
「もちろん!」
と返事をした。
マスターの好意が、素直に嬉しかった。
マスターは、社長のオレではなく、オレ自身を認め誘ってくれているのだから。
「その珈琲、そんなに美味しいんですか?」
――あ。やべ。
マジで一瞬、忘れてた(笑)
すっかり珈琲の世界に入っていたオレたちに取り残された菜奈ちゃんは
不思議そうに首をかしげて、話に割り込んでくる。
「あー…、美味いかどうかは飲んでみないとわかんないけど」
多分、というと菜奈ちゃんは少し悩んでから
「菜奈も、飲んでみていいですか?」
と、ガリガリとミルを真剣に挽くマスターと、オレに尋ねた。
。
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