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けど、分かっているんだ。
マスターも、オレも。
どんなに真似して淹れたって、あの珈琲の、マスターの味にはならないんだって事を。
だから留守番なんて、誰でもいいんだって事を…。
「―…だよね。あーあ、マスターのいつもの珈琲飲みたかったのになぁ―…」
「本当にすいません。マスターさん、出掛けるときに表の看板『CLOSE』にして行くって、言ってたんですけど…」
そう謝りながら菜奈って子は、ペコペコ頭を下げる。
別に自分が悪いわけでもないのに。
まぁ、客商売なんだから、それが普通といえば普通なんだけど
この店は、そうゆうんじゃないから。
けどさっき、オレが入って来た時にあんなに動揺した理由が分かって
きっといい子、なんだろうな…と思った。
―それにしても。
何で、だ?
店の表の看板は『OPEN』のままだった。
あの几帳面なマスターが、ひっくり返すのを忘れた、なんてミスをするとは到底思えない。
しかも、この時間の客なんてほとんどと言っていいほど、オレしかいないのに…
辻褄が合わない。
ただの買い出しなら、店を一旦閉めればいい。
そんな事はこれまで、いくらでもあった。
それなのに、わざわざ新しいバイトの子を置いとくなんて―…
これは安易に、オレに待ってろ、って事なんだろうか―?
。
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