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ドン、という軽い衝撃があったーーような気がして、篠原五木(しのはら いつき)は目を覚ました。篠原がいるのは、日本宇宙航空(NSL)265便、通称号のキャビンの後方の、窓側の座席だった。離陸時以外、地球の気流の影響を受けることがない宇宙空間では、滅多なことーー例えば、機体に何らかのトラブルが生じた場合などーーが無い限り、衝撃を受けることは無い。それ故、篠原は先程の衝撃が気になった。しかし、どうやら篠原以外、あの衝撃に気付いた者はいないらしい。気のせいか、と思い直し、篠原は前のシートの背凭れにあるモニターを操作し、現在地を確認した。
それによると、《ハヤバサ》号は、目的地である月面都市「ルナ・シティ・トウキョウ」までの行程の半分ほどの場所にいた。到着までまだだいぶ時間があることを確認した篠原は、ふぅ、と小さくため息を吐いて、窓の外に目をやった。
窓の外は、どこまでも蒼く、下には雲海が広がる、空の光景が広がっていた。ーーただしそれは、窓のスクリーンに投影された、地球の空の旅を再現した映像に過ぎない。篠原は窓の横に付いているボタンを押して、映像をライブ映像に切り替えた。
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