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ふと、目を覚ます。
とても楽しい夢を見ていたような、ぼんやりとした記憶が尾を引いた。まだ寝ていたいけれど、そろそろ起きなくては。
学校に行かなくちゃ──と、そこまで思考が行き着いたところで、俺はようやく気付いた。
視界が、黒い。
それ以外に形容しようがない。暗いとかそういう比ではなく、とにかく黒いのだ。上下左右正面、全て黒。
他の色など気配すらない。
当然、俺は慌てた。
勢いよく身体を起こすと、ひどい倦怠感に襲われた。
ぐらり、と世界が歪んだような感覚がする。
「あ、起きた」
俺が身を起こしたそのとき、可愛らしい声が耳に届いた。動物園のナマケモノでも観賞していたような調子の声音だった。
その声の主に俺が応えるよりも早く、周囲が騒然とし出した。
「見習い。すぐに当主を呼んでこい」
と、すごく偉そうな低音の声がしたかと思えば、
「解ってるよ五月蝿いなあ!」
声変わり前の少年みたいな独特の声音がして、誰かが走り去っていく。
「……なんか、思ってたより普通かも」
「お嬢様。例えそれが事実でも、口に出してはいけませんよ」
なんて、さっきの可愛らしい声の主を宥める、好青年風な声もして。
一体全体、俺はどうしたというのだろう。
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