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いや、今はそれよりも訊くべきことがある。
「……ルナって、誰ですか?」
少しの間を空けて、周囲がざわめき出した。転校してきて最初の質疑応答で、とんちんかんな答えを返してしまったときに似た空気が漂い出す。
え? なに? 俺が悪いの?
一人だけ孤独感を噛み締めていると、周囲の彼らの代表らしい『オトーサマ』が口を開いた。
「えーと……月とは、君のことだよ」
「え?」
「え?」
俺のえ? は、何ですと? の意。
『オトーサマ』のえ? は、まさか本気で言ってたの? の意であろう。
俺の名前は三原貴志(みはらたかし)だ。るの字もなの字もない。一体どうしたら、そんな呼称になるというのか。
またもや漂い出す微妙な空気。しかし、それが充満する前に『オトーサマ』は開口した。
「──その辺の齟齬は、おいおい解決するとして。
とにかく、僕らは君を待ち望んでいたんだ。ようやく会えた月なんだよ。
ようこそ、我らの月。
ここは貴方の世界です」
なるほど。
これは夢だ。
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