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◇
桜は散るから綺麗なのである。でも散り際の桜より、いつも隣で笑っていた“さくら”の方がずっと綺麗だった。
「さくら……お願いだからもう一回明るい笑顔を見せてくれよ。お花見だってまだ行けてないよ……」
さくらは目にうっすら涙を浮かべた。
そして、弱々しく笑顔を見せる。僕が見たかったのはそんな笑顔じゃない。
「さくら……」
「また……会えるよね?」
「え?」
さくらの小さな手が僕の頬を撫でる。
「桜は散るから次に咲いた時も、凄く綺麗なんだよ……だから、散ってもまた会えるよね?」
涙が溢れ出してきた。止めようにも涙が止まることはない。僕はさくらの手を強く握った。
そして、笑顔を見せて頷く。
「絶対にまた会える。だから……次はお花見行こうな」
さくらは安心したようにゆっくり頷き、目を閉じてしまう。笑顔だった。でもそれはどこか儚げで、桜の花によく似ている。そんな笑顔だった。
僕は暫く泣き続けて、涙がかれた頃、無性に桜の木が見たくなった。窓を開けると心地いい風が吹く。
その風に乗って桜の花びらが部屋に入ってくる。
そして、花びらは横たわる彼女の額に降りていった。
桜は散るから綺麗なのである。それを証明するように、この時の彼女は世界で一番綺麗だった。
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