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戸の向こうから声がした。
「図々しくも、まだあの女は居座っておるわい」
「厚かましいのも限度を越えておる」
女たちの妬みの声。
「これ、おまえたち。あの女の事を悪く言うて、それを永田様が知りでもしたら」
と、男たちが小さな声で言う。
鷹の銀は、もう私にも慣付いていて、飛び回り疲れると、永田様と同様に私に、背を撫でてくれと、近寄ってはしばらく離れないでいた。
「そうじゃ、あの御方の事柄に触れてはならぬ」
「しかし、あんな汚らわしい遊女のような者に、食事を運ぶわたくしたちのお気持ちもお察し下さいませ」
「お部屋に閉じ込めておられるから、何一つ言えやしませんもの…、もぉ悔しくて」
わざと、大きな声で私に聞こえるように女たちは言っている。
私は銀を撫でながら思った。
銀…、あぁは言われても、私は永田様に命じられておるのだから、どうしようもないよね?
銀は、気持ち良さそうに私を見つめる。
「宮中からあの御方と御子様が戻られるまでの辛抱じゃ」
あの御方と御子様がって……?
「そうじゃ、さすればあんな女はもう用済みで、この世から消されるわい」
そんな……。
「それだけの価値しかない女に、つべこべ言って、おまえたちが先に消されては困るだろ?」
「はい」
「与えられたお役目を果たしなされ」
「はい」
と、男たちの去る足音の後に、引き戸をバタンと叩かれた。
私は驚いて足が崩れた。
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