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「女、聞いたかい?おまえのような女は一時だけ」
一時だけ……?
「宮中から奥方様と御子様がお戻りなれば、おまえのような女は死、有るのみ」
死、有るのみ……?
「これは有る意味、面白い。おほほ…」
「おまえの骸姿が、頭に浮かぶわ。おほほ…」
「せいぜい、お調子に乗りなされ!おほほ…」
「おほほ…」
銀…、永田様は奥方様がいらっしゃるの?
「クーッ…」
羽を大きく広げて、返事をするように銀は鳴いた。
「…知らなかった…」
好きだと気が付いたばかりなのに、こんな現実は悲し過ぎる。
聞いてはならぬ事を聞いてしまった。
知ってはならぬ事を知ってしまった。
やはり耳を塞いでおけばよかった…。
好きだと気が付いたばかりなのに…。
好きだと日々、心が膨らむばかりなのに…。
好きだと…好きなんだと…いつもあなたを想っているのに…。
涙を流しながら、私は畳を濡らした。
胸が苦しくて、痛くて、そこに手を当てながら、もがくように泣いた。
永田様が愚かなのか、私が愚かなのか分からなくなってしまうくらい泣いた。
所詮私など、山里の村育ちの薄汚い女。
そんな女が女狩りで貴族に買われただけなのだ。
身分の違う貴族の御方を、好きになる事じたいが、私の愚かな事なのだと思った。
永田様のお世話役とは、一時だけの性欲を満たすための道具にすぎぬのだと思った。
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