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永田様は小太刀を手に持って、近寄ってきた。
本気か?!
そして、私の首元に小太刀を当てた。
「主の俺に偽り、役目を果たせず逆らった罰は大きいぞ?」
ううっ…。
「いずれにせよ、私はこの世から消されるのでしょ?…ね、永田様?一時が終われば、消されるのでしょ?…奥方様とお子様が戻られたら…私は死をもって、この世から消されてしまうのですよね?…」
永田様は驚いた表情をしたが、何故か苦しそうな顔を浮かべていた。
「誰に聞いたのだ…言え!」
「分かりませぬ」
「言うんだ!」
「分かりませぬ」
永田様は私の首元に当てた小太刀を、更に強く当てた。
痛い…っ…。
「戸の向こう側は、いつも私の悪口で、賑やかいので、誰かなどとは分かりませぬ」
私は、ほろほろと涙を流しながら言った。
「誰がどうのよりも、永田様に好きと言って貰えたならば、私は例え奥方様やお子様が居られても、貴方様の側で貴方様のお言葉通りに、受け止めていけれるのです…」
好きなのです…。
ただ、それだけなのです。
色々と貴方様の居ない間に考えました。
貴方様と私の身分の差も。
貴方様の御家族の事も。
それを知らせてはくれなかった、貴方様の心中も。
私を此所に置いておく深い意味も。
貴方様を好きで堪らない愚かな自分の事も。
貴方様の、たった一言で、愚かな自分の心中が報われるのでございます。
好きという…たった一言で…。
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