一、捕らわれぬ

5/6
前へ
/152ページ
次へ
「そこで、何をしておるのだ!」 叫ぶ声に山賊たちが、辺りを見渡す。 そして、恐ろしく驚いた。 弓の矢が、私の頬をかすめて、山賊の頬に傷をつけて、木に突き刺さったのだ。 「痛ぇな!誰だ!」 誰なの、こんなに真っ直ぐに矢を飛ばせるだなんて。 「きさまらは一体、何者だ!」 橙色の狩衣の色男と、薄緑色の狩衣の冷たそうな男が、馬の手綱を引っ張り、おりてやって来た。 「手荒な事を。その手を離しなさい!」 橙色の狩衣の男が、山賊達に怒鳴り付ける。 「これはこれは、都にいらっしゃる方々が、こんな山里に何の御用です?」 山賊の親分が聞く。 「…狩りだ」 薄緑色の狩衣の男は、やはり冷たそうな声で言った。 先ほどから、飛び回っていた鷹がバサバサと、その薄緑色の狩衣の男の肩に止まった。 「それは奇遇で。私どもも都に住む貴族の方々のために、狩りをしてましてね…」 「…女狩りというのだろ?」 薄緑色の狩衣の男は、淡々と表情一つ変えずに、山賊を見下して話を続けた。 「なんとも話の早い方でございますな」 女狩り?! 「女狩りとは不埒な!」 橙色の狩衣の男は、怒り口調で言った。 「そんなものを、我々貴族のためだなどと、嘘偽りを抜かしておると、罰を受けるぞ!」 「まぁ、待て、後藤」 「侮辱ではないか、永田」 「なぁ、山賊どもよ。どうせ女狩りをして貴族に売り飛ばすのならば、その女を今、俺に売ってはくれまいか?」 この男は、山賊に真っ向から話を付けている。 「永田様と申されましたね?貴方様の御身分はどれ程のものかと?」
/152ページ

最初のコメントを投稿しよう!

154人が本棚に入れています
本棚に追加