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山賊の親分の言葉に、永田という男は懐から袋を取り出した。
「身分は、右大臣様の直属の元で勤めておる、と言ったら理解できるか?」
そして、その袋を山賊に投げ捨てた。
「それは、またなかなかの御身分で」
「金など、おまえにくれてやる。女を渡せ」
と、永田という男は右手を差し出した。
山賊の親分は、手下に合図をして、私はやっと解き放たれた。
私はゆっくりと脅えながら、その差し出された手の方へと行った。
手下は袋の中を確認すると、すぐに親分に報告した。
「こ、こんなに」
「おまえたちでは、なかなか持てぬ程の額だ。まぁ好きに使え」
後藤という男が見張る中、私は永田という男の手を握る。
山賊たちは金に、うつつを抜かしていた。
「大丈夫か?」
「はい…」
「おまえは女なのだから、用心しなくてはいけないよ」
「はい…」
私は馬に乗せられて、山賊たちの横を通り過ぎた。
「家はどこだ?送り届けてやるぞ?」
後藤という男が、さっきと違い陽気な口調で言ってきた。
「実は百姓小屋にお米を買いに行く途中で、山賊に狙われてしまって」
「そうか、じゃあまずは用を済ませねばな」
「すいません」
貴族なのに、貴族らしくない。
こんなに、親身になってくれる貴族もいるのだと正直、驚いた。
まともにこんな自分とは、全くもって身分の違う相手と話をした事がないため、少し緊張していた。
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