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足りないのは、知識ではない。財力でも権力でもない。
問題は利益ではない。倫理とも違う。善でも悪でも大した差はない。
もう少しなんだ。
もう少しなのに。
僕が。
僕の弱さが、それを遠ざける。
強さが欲しい。美しい光を放つ圧倒的な強さが。
「力が欲しいのかい?」
「欲しい」
「なら、おいで」
暗がりから差し出された手はヒトのものではなかった。
「……」
「手をとるんだよ!」
イライラした声の後半は獣のうなりに変わっていた。
力が欲しいはずなのに、僕はまだ何かくだらない物にこだわって、自分を捨てきれない。
「さあ…」
「嫌だ!」
咄嗟に僕の喉からは大声が飛び出して、僕は手を払っていた。
「何故」
「なぜ」
「ナゼ」
周りがざわつき始める。問う声は皆、批難めいた色をしていた。責める顔は裏切られた表情をしていた。
なぜ?
僕は、人間を、やめたくないのか? 人間のままでいたいのか? 人間はとても弱いのに?
僕にもよく分からなかった。ただ、はっきり拒んでしまってから、自分の中の真っ黒な穴に気づいた。そこからは得体の知れない冷たい風が吹き出ていて、確かに僕の頬を撫でていった。
目が覚めた気がした。
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