野乃崎 春海の場合。

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――春に、海の見える病院で生まれたから「春海」。 食器を洗いながら母は至極簡潔に答える。 アタシの名前の由来を聞いたらそう言ったの。 学校でそういう課題があったから。 ……信じられる? その後、続く言葉を待ってみたけれど付け足されることもなかった。食器とシンクに水が跳ねる音がするだけ。 あれは衝撃的だったなぁ。 まさに雷が脳天直撃って感じ。 「春」だって「海」だってすでに習った漢字だったから、漢字の意味なんて分かっている。 もちろん、そんなことをわざわざ聞きたかったんじゃあない。 こんな風に育って欲しいとか、あんな人間になって欲しいとか、もっとこう・・・素敵でロマンチックなエピソードを期待してたわけ。
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