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「いらっしゃーい」
春海はそのパン屋に立ち入るといつものように威勢のよい声に迎えられた。
店内は、パンの香りが一層濃く、体の隅々までその香りに浸っている気分だ。
春海は、朝食と言えば白いご飯派だったのだが、この辺りに引っ越してきた頃からこの香りにそそられ、一度立ち寄ったのをきっかけにこの店の虜になってしまった。
そして、このパン屋に通う理由がもう一つ。
今日もトレーに一つだけ選んだパンを載せ、レジに向かう。
「はい、どーも。いってらっしゃい」
並んでいるパンのようにふっくらとした顔の店主は、レジ袋に春海の選んだパンの他にもうひとつパンを入れた。
ここのパン屋はたとえひとつだろうとオマケのパンをつけてくれるのだ。
この小さな商店街でやっていくには、それほど余裕があるようには見えないのにこういう気遣いをしてくれるところがまた来たいと思わせてくれる。
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