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さっと立ち上がって逃げようとした彼の腕を、私は反射的に掴んでいた。
振り返った彼の瞳は、今にも泣き出しそうに潤んでいた。
私は思わず息を呑んだ。
なんて美しいんだろう……。
見交わす目と目。まるで出会ったあの日のよう。
頬に籠もる、場違いな熱。
場違い、しかし、これほどこの場にふさわしい熱もない。
ついに、彼は涙をこぼした。はらはらと。
坂下くんの美しい瞳。その奥から滲み出す、清らかな水。
私は背伸びして、彼が逃げないように頭の後ろを片手で押さえた。そして、目尻のしずくを舌で掬うようにして舐め取った。
舌の上で、輝きが甘く煌めき溶けた。
END
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