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「あ、あの、少し考えさせてくれませんか?」
「なぜですか?」
困った瞳で彼が問う。かっと顔が熱くなる。今にも沸騰しそうだ。必死に抑えて私は喋った。
「あっ、あっ、あの、あのね、わ、私、貴方のこと何も知らないから。だからっ、貴方のことをね、知った上で決めたいの。大事なことだから、そう思うの。そ、その、だから、ね……私、貴方と一緒にいたいの」
わわっ! とんでもないこと言っちゃった! ダメだあっ!
そう思った。なのに彼ときたら。
「なるほど。知りたい、行動を共にしたい、と。それは、僕の行動パターンを知りたいからですか ?それとも趣味嗜好?」
冷静にそんなことを。
一瞬、彼の言ったことが飲み込めずに、脳がフリーズした。けれど、ワンテンポ遅れて私は、ぶんぶんと首を横に振った。
「では貴方は僕の何を」
「全部」
欲張りな人ですね、と彼は苦笑して、私の腕を離した。そして改めて、右手をすっと差し出した。
「宜しくお願い致します」
それが、彼と私の日常の始まり。
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