2人が本棚に入れています
本棚に追加
まぁ、結果から言うと、負けた。
俺と澪は家へ帰る途中の駅で降りて、薄暗い海岸に座り込んでいた。
二人共一言も喋らず、ただ隣に座っているだけだった。
沈黙が気まずい。
「あーあ、負けちゃったかぁ」
俺はいかにも残念です、という様に笑って砂浜に寝っ転がって空を見上げた。
澪は何も言わず、こちらをちらりと見てまた視線を海の方に戻した。
なんだよ、せっかく沈黙を破ってやったのに。
まただんまりじゃ俺の努力の意味が無くなっちゃうじゃないか。
俺が一人で憤慨していると今までぼうっと海を眺めていた澪がようやく口を開いた。
「泣いていいのよ」
「はぁ?」
やっと喋ったと思ったらなんだよそれ。なんで俺が泣かなきゃいけないの。別に今年負けたって来年があるんだから――。
そこまで来て、ハッと思い出した。
そうだ、もう、来年なんか無いんだ。
正真正銘、今年で最後だったんだ。
もう二度と、優勝なんて、
「あ、」
ぼろっ、と涙がこぼれた。一回出たらそれはもう止まらなくて、ぼろぼろぼろぼろ溢れて、どうしたらいいか分かんなくなった。
ああもう、カッコ悪い。
「最後のダンク、良かったよ」
「うんっ、」
「全部見てたから」
「うんっ、」
知ってる。応援席のはじっこで、じっとこっちを見てる澪を、俺は見付けてた。暑いの苦手なのに、人混みだって嫌いなのにわざわざ来てくれた。それも二回も。
それなのに負けちゃった自分がほんと悔しくて、三年間の努力とか色んなものがもうばらばらに崩れて散らばっちゃったような気がして本当に涙止まらなくてどうしたらいいか分かんなくてただただ泣いていた。
「頑張ったね」
「う、んっ、」
「ラーメンおごってあげるよ」
「豚骨、大盛で、」
「はいはい」
なんとなく子供扱いされてるような気がしたけどそんなことはもうどうでもいい。
とりあえず今は思いっきり全部流しきりたかったから。
「瀬南」
ふと名前を呼ばれて澪の方を見る。
一瞬、ほんの一瞬、澪の顔が近付いてきて、離れていった。
「…え、」
「頑張ったご褒美」
真っ赤になった澪を見て、俺はやっとキスされた事に気が付いた。
最初のコメントを投稿しよう!