夏の暁

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「瀬南。口拭け」 「おっと」 ティッシュを取ろうとすると、すでに用意していたらしい澪がぐいぐいと強引に口の回りを拭いてくる。 ・・・いつになったら子供扱いやめてくれるのかな。 こういう所は少し、嫌いだ。 俺の心情上、あまり弟扱いはして欲しくなかった。 それにこの体勢、めちゃくちゃ顔近いし。 向こうは無意識なんだろうけど。ああ、イライラする。 「俺もう高三なんだけど」 「高三が口を拭かずにうろうろするの?」 「・・・それくらい自分で出来るから。子供扱いやめて。」 「出来ないからやってるんでしょ」 「・・・・・・」 ほらまた。子供扱い。 いつになったら意識してくれるんだろう。 俺だって、男なのに。 でも、俺に世話を焼く澪が優しい目をしているから。 澪の特別でいられる気がするから。 甘えてみる。 「澪」 「何――」 こちらを向いた澪に軽くキスをして、頭を撫でてやる。 「瀬南!!こら!ふざけるな!!」 「あっはは!行ってきまぁす!」 澪の怒号から逃げるように家を飛び出した。 ごめんよ澪。でも意識してない君が悪い! 「あっちー・・・」 夏休み前の最後の一日。 この日が終わればもう、夏休みだ。 早く夏休みになれば良いのに。 早く。 早く、夏に。 夏になってしまえばいい。 俺はこっそり澪とお揃いで付けているストラップの付いた自転車の鍵を差し込んで、思いっきりペダルを踏み込んだ。
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