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夜。澪におやすみを言ってから部屋に引きこもった頃に丁度ケータイが鳴った。
表示された名前はもちろん、正紀のもの。俺は通話ボタンを押して、何を言われるのかとどきどきしながらケータイを耳に当てた。
『もしもし?こんばんは』
「もしもし!俺だよ!」
『うん。さすがに分かるよ』
「で、話って?」
ぱたりと正紀が黙り込んだ。ガタガタと風の音がうるさい。ちょっと直球すぎたかなとも思ったけど俺だって早く話を聞きたいんだ。
だって気になる。
正紀が俺の好きな人――澪についてどれだけ知ってるのか。そもそも、俺の好きな人=澪の構図があいつの頭の中ですでに完成してしまっているのか、とか。
五分、十分が経った。気がする。実際には一分も経っていないだろうけどそれぐらい俺が我慢出来なくなってきた頃、ようやく正紀が話を切り出した。
『瀬南は、さ』
「うん?」
『瀬南は、凄いと思う。自分がそうと決めた事はやり通すし、また、それをやりとげる強さも持ってる。僕は、そんな君が羨ましい』
「……」
『君の察した通り、僕は由香里に告白した。で、付き合うようになった』
「だから、どうしたんだい」
『ねぇ、瀬南は、澪が好きなんだろう?』
時が止まったかのような焦りが押し寄せてきた。その瞬間、俺の頭を駆け巡ったのはバレてしまった事への焦りと、正紀に嫌われてしまうんじゃないかという不安。でも、どこかでこうなるんじゃないかと分かっていた自分もいて、まぁ、要するにぐっちゃぐちゃだった。
「…なんで、」
『瀬南見てれば分かるよ。違ったらごめん。気付いてるの、僕だけだと思うんだけど…』
「そっか」
『君の反応で確信したよ。そっか。やっぱりそうなんだね』
沈黙が、痛い。
『僕は別に、君を軽蔑したりしない。むしろ応援したい』
「そっか…よかった」
『もし、もし君達が、そこから逃げ出したいのなら、僕は精一杯協力しよう』
「ありがとう」
『だから、絶対に一人で解決しようとするな。言いたいのはそれだけだよ。』
「うん、分かった」
『本当に分かってるの?』
「分かってるよ」
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