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理解者が居る、というのがこんなに気持ちが落ち着くものだとは思っても見なかった。
でも、澪は。
澪は、大丈夫なんだろうか。
もしかしたら誰かに話しているのかもしれない、なんて一瞬思ったけど、真面目な澪が誰かに話せるとも思えない。俺でさえ、正紀に気付かれるまで誰にも言えなかったんだから。
だから、澪には俺が居てあげなきゃ。俺が、澪を守ってあげなきゃいけないんだ。
『瀬南?大丈夫?』
「あ、ああうん、平気」
『そう』
急に正紀の声のトーンが低くなった。そっちこそ大丈夫かよ。そう思っていると正紀の深呼吸が聴こえた。
『後、さ』
「うん」
『今日、勝てなくてごめん』
ああ、やっぱり。
本当に責任感が強いと言うかなんと言うか、しっかりしてるんだろう。こいつは。
だからこそキャプテンになった訳なんだけどさ。
「いいよ。負けるときは負けるんだからさ」
『まぁ、そうだね』
ふふっと正紀が笑う。もしかしたら泣くんじゃないかと思ったが、案外そうでもないらしい。
『最後まで僕とバスケしてくれてありがとう、エース様』
「こちらこそありがとう。キャプテン殿」
『じゃあまた夏祭りで』
「おう」
電話を切って、ケータイをベッドに放り投げた。時計を見れば十二時半。お腹が空くわけだ。
「…なんか食べよ」
キッチンに行けば何かしらあるだろう。
階段を降りてキッチンに行けば、珍しく良い匂いが漂ってきた。
(…母さんか……?)
この匂いはホットケーキだろうか。しかしまたなんでこんな夜更けに。
「やっぱ来た」
「澪!?」
澪はテーブルにホットケーキの皿とバター、メープルシロップを並べて得意気に笑った。
「お腹空いて降りて来るだろうなぁと思って用意しといた」
「…食べられるのかい?」
「知らない」
そう言って澪は失敗作だろう真っ黒のホットケーキをぶすりと差した。
あ、良いこと思い付いた。
「早く食べないと冷めるよ」
「はぁい」
にっこり笑って澪の手からフォークを奪って真っ黒焦げのホットケーキを食べてやる。
うん、苦い。
「あっはは、くそまずいんだぞ!」
「なんで綺麗な方食べないんだ!」
「劇物の処理!」
「うるさいばか!」
あーあ、夏なんてくそくらえ。
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