夏の暁

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俺は、澪が好きだ。 姉である、澪が。 こう言うとかなり危ない雰囲気というか、ほとんどの人は眉を寄せて顔をしかめるだろう。 「姉弟なのに」 「血が繋がっているのに」 それは異端な感情だと、白い目で見られ、後ろ指を指されるだろう。 もしかしたら、もう澪といられなくなってしまうかもしれない。 でも、俺はどうしても、澪を姉だとは見れなかった。 なぜなら、彼女と俺は血が繋がっていなかった。 親同士の再婚でたまたま一緒に住む事になって、向こうの方が少し誕生日が早いだけ。 それだけだ。 そんな俺がごり押しにごり押し、猛アタックしても、澪はなかなか折れなかった。 「お父さんとお母さんが、悲しむ」 そう言って目を伏せて、泣きそうな顔をするんだ。 それでも俺は澪が好きだったから、告白を続けた。 たまたま一緒になった帰り道だとか。 両親が寝た後とか。 買い物の帰りだとか。 そして澪はやっと折れた。 「夏の間だけね」 そう言って。 そのときの澪の目は、強がっているときの目だった。 本心を隠して強がっているときの目だった。 「俺の事、嫌い?」 「嫌いだったらオッケーしないぞばか!」 「じゃあ、なんで」 「お父さんとお母さんが、悲しむから」 澪はやっぱりそればっかりだった。 それはつい一週間前の事。
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