さん

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 花音はPSG1のコッキングレバーを引き、スコープを覗き込む。  1km先の自軍と敵軍は今だ膠着状態を続けており、動きは見られない。  那由多から命じられたことは一つだ。 『敵大将の頭を吹っ飛ばしてきなさい!』  いつも通り紅茶のおかわりを要求するような気軽さで命じられたそれは、那由多からすれば難度としては同じものなのだろう。  花音が失敗するはずがないと思うがゆえに、彼女はいつもと同じように指示をしたのだ。  なかなかに難しそうですが。  遮蔽物が無く、有効射程とはいえ、常に波に当たり動き続けるブイの上だ。自分が動けばスコープの中にいる的も動く。それでも  やるしかないのだ。この一発で主の今後の行く末が変わってくる。  自分が成功すればきっとその後もすんなり制圧できるだろう。  そうすれば実験都市の約半分の地域を制圧することになり、それは勝利への大きな前進を意味する。  逆に失敗すれば同じ方法は使えなくなる。しかも同盟計画も全てが水の泡だ。  花音は一度スコープから顔を外し、プレッシャーからくる心拍数の上昇を深呼吸することで落ち着ける。  今は余計なことは考えない方がいい。的に弾を当てることだけを考えるべきだ。  数度。大きく深呼吸をし、力が入っていた肩を下ろす。  仕切り直し。再度、スコープを覗き込み標準を敵の大将に合わせる。  呼吸をゆっくり、長く行い、銃身のブレを減らして行く。同時に気持ちも落ち着け、なるべく心拍数も抑えていく。  長く長く潜水をする時のように。  PSG1のトリガーに指をかけ、あとは引くだけ。それだけで弾頭を撃ち出し。直後には結果が出る。  もし外してもセミオートのPSG1なら再度即撃ち直しも可能だが反動もある。2発目以降には期待しない方がいい。  再度上がってきてしまった心拍数をスコープを外さず、長い深呼吸をするだけで落ち着け、ゆっくりと息を吐き、吸い、半分ほど吐いた自然に止まる量で止め、そして。  引き金を引いた。
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