オトシモノ

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暫く私達は無言で足を進めた。 あの携帯ゲーム機以降しぐれの物だと思うものは一つも落ちていなく、逆に私のものだと思われるものは、しぐれに持ってもらわないと運べないほどの量だった。 そしてやっと最後と思われる私のものにたどり着いた。 何故最後かと思うといわれれば、その先にはもう何も落ちていないからだ。 私の最後の落し物は、大きなヒビのはいった携帯電話だった。 幸い壊れている様子もなく、電池はまだ十分にあるようでスイッチを押せば小さな音を立てて起動した。 電源が入ってすぐに目に付いたのは留守録メッセージのアイコンだった。 それはまるで私を押してと言っているようで、私はそれに指を伸ばそうとしたが途中で止まる。 何故だか押してはいけない気がしたのだ。 いや、正確には言いようも無い恐怖が身体を支配したのだ。 私は石のように身体を固めて画面を凝視していると、隣からしぐれの手が伸び、その手は留守録のアイコンに触れた。 驚き、抗議するようにしぐれのほうに振り返るが、しぐれはどこ吹く風のように私を見る事はなかった。 声が聞こえないのは分かっているが、ついいつものクセというのだろうか私は何か言おうと口を開くが、代わりに私達の耳に入ったのは私の声ではなく聞きなれた女性の単調な声だった。 「留守録は1件、です。 『おい、紅しっかりしろ!!何寝てるんだよ、おい何か返事をしろやっ!!』 『すいません、ここからは手術に入りますのでお下がりください』 『うるせぇ!!紅、約束破ったら唯じゃおかないからな!!紅ー!!!』 『落ち着いてください。私達が全力で彼を助けます』 『『紅っ!!!』』 消去する際は3を・・・・」 雑音混じりに聞こえたのは切羽詰った男女二人の声と、それを宥める女性の声。 『手術』という単語があったから病院辺りからかけたというのだろうか。 それにしても留守電にしては可笑しい。 どちらかと言えば、一部世界が切り取られたような感じだ。 ツキン 鈍い痛みが脳内に響く。 これ以上聞くな、とでも言うようにまるで警告されているようにその痛みが広がった。 私が顔をゆがめて頭を抱えていると、しぐれが心配そうに覗き込んできたので私はなんでもないとでも言うように小さく笑みを浮かべた。
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