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――車内に充満する色とりどりの匂いがどうにも好きになれない男でした。  そもそも人間の生活臭というのが苦手な人間なのです。  おそろしいのはそれ――特殊な習性のようなものです――が彼の頑固さと相まったときで、そういったとき、到底彼は駄々をこねる少年のような厄介者に成り下がるのでした。  今年で二十三になる彼は、到底少年と言えるような年齢ではないはずなのですが、肉体と精神とが釣り合うことを放棄したかのような生き様こそ、二十二年と少しの歩みの結果というのですからこれはもう仕方のないことなのかもしれません。  根本的な解決が無理なら妥協するしかないというのは人間の性でありますが、結局、彼の子供らしさが嫌ならば傍によるなという、これまた至極子供じみた言い分の先に一応、決着するのです。  難儀なことは、彼の子供らしさとは全く別のところに、彼の魅力があるところで。  そしてそれは基本的には交互に出現するというのですから、全く難儀なことなのでした。  人を惹きつける能力――というものが仮にあるならば、彼には間違いなくそれがあるでしょう。  しかし同時に、人を引き離す能力も備わってもいる。
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