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  華凛は、相談事をよくされる。 相談と言っても、それは仕事の愚痴であったり、一方的に話をしたがるだけであったり。 様々だ。 それも、凪紗や琴音だけではない。 また別の箱の女も来る。 華凛は自分自身の事は、闇の中。 自分でも自分がわからない。 多くの時間、心が無の状態である人間。 そんな華凛だからこそ、聞き上手なのかもしれない。 聞き上手というのか。 ただ話に耳を傾けているだけ。 ひたすら。 そして、そんな存在の華凛を求める女たち。 華凛も拒否などしない。 心が無の人間だろうと、誰かに必要とされたら、応えたくなるのだろう。 ある意味、職業病なのかもしれない。 相手の心を読み、やんわりと包み込む術。 勝手に身についてしまった術。 虚ろな目で見据え、この身体で培ってきたモノは、無駄ではないというのか。 「ふ………。」 ため息が漏れる。 華凛はこんな風に考えを巡らす自分の脳を、不思議だと思った。 「華凛さん、疲れてます?」 ため息に気付いたのか、琴音が訪問してよかったのかと戸惑うような口調で聞いてきた。 「…ん…?いや、大丈夫だよ……。」 目を合わせるでもなく答える。 と、内線が鳴る。 立ち上がり、出る。 「…はい。あ、あぁ…わかった…。」 見上げた凪紗が聞いた。 「仕事?」 「うん。…凪紗が、ね……。」
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