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受話器を戻しながら、華凛が指をさしたのは凪紗だった。
「私か!よかった~。今日、お茶ひいたら、どーしようかと思ってたよ。」
持ってきた煙草を手に、凪紗は自分の箱に戻っていく。
二人に挨拶をして。
「じゃあ、とりあえずバイバイー。」
華凛の箱には、琴音だけが残った。
琴音なら、何か話したい事があったはず。
ちょうどよかったかもしれない。
「………で?…どうしたの?」
まだ膝を抱えて座ったままの琴音に問う。
できることならのんびりしたいが、そういうわけにもいかない。
時間の自由など、保証されたものではない。
いつ何時、自分という体が、知らない男に拘束されるかなどわからないのだから。
「実はまた、殴られちゃいました…彼に。」
言いながら一瞬、目を合わせてきたが、すぐにまた下を向く。
「そう………。」
短く答えながら、華凛は煙草を吸い始める。
おそらく、琴音の体のどこかに痣でもできているのだろう。
身に纏った薄い布に隠れている見えない部分の、どこかに。
「お酒飲むと、あんななっちゃって…。」
思い出したのか、少し体が震えた。
煙草を持っていない、空いている方の手で琴音の頭を撫でる。
「…琴音も、彼も、悪くないよ………。」
酒を飲んで、女を殴る男。
悪くない?
そんなわけがない。
考えただけでも、怒りのようなモノを覚える。
感情の起伏が激しくない華凛でさえ、胸の中がカッとする程だ。
しかし、琴音にとっては大事な存在なのだ。
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