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  殺風景な部屋。 大きなTVがついている。 華凛は、帰宅していた。 朝のニュースが映る画面をぼんやり眺めている。 いつもなら、もうベッドに潜り込んでいる時間。 何となく、体がベッドへと向いてくれないでいた。 山盛りの灰皿の上で、煙草がどんどん短くなっていく。 白い煙りだけが、無意味に部屋を漂う。 目で追うように天井を仰ぐと、煙りがすーっと消えていく。 そうしているうちに煙草の火は、消えた。 ソファーの背もたれに頭をのせ、天井を仰いだまま。 何も見てはいない目も、開いたまま。 華凛は、何かを、見ていた。 頭の中で。 琴音の話を聞いて、ふと。 自分が箱にきた理由を、回想していた。 箱にいる訳。 考えているのではない。 ただ、ぼんやりと思い出しているような。 考えたいとも思わない。 普段なら。 ただ、ぼんやりと思い起こしているような。 きっかけなど、あったのか。 気付けば、明確なきっかけなど、よくわからないくらい箱に居座っている。 言わば、古株。 箱の女たちが、華凛を母や姉のように慕い、寄ってくるのはそのせいもあるだろう。 ふと、灰皿の山を掻き分けた。 いつもなら手をつけないシケモク。 火をつけ、天井を見ていた瞼を閉じた。 殺風景な華凛の部屋に、また煙りが舞った。
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