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ヨシュアの企みは、面白い程とんとん拍子に進んでいった。
キリエと仲良くなるのも、あの家から連れ出すのも、簡単すぎた。
大切にされているのだろうキリエだが、あの男娼はどうも詰めが甘いように感じた。
ヨシュアはなるべく人が多い商店通りは避け、何もない廃墟が立て並ぶ通りに誘導する。
物珍しそうにキョロキョロと辺りを見回しては、「あれは何?そっちのは?」と聞きまくるキリエに、ヨシュアはうんざりと顔を顰めている。
クレドと違って慈愛の欠片もないヨシュアにとって、そんな質問をされ続けるのは面倒でしかなかった。
「ねえ、ここ暗いから、ちょっとこわいね」
昼間にも関わらず逢魔が時のような暗さに満ちたこの道に、キリエはいつもの陽気さにはなれず、ギュッとヨシュアの裾が破れたマントを握った。
「おい何掴んでんだよ」
「だってこわいよ」
キリエはクレドならば怖がらないように手を握ってくれたり優しく笑ってくれるのに、と内心不服に思う。
ヨシュアは暫く歩き、適当な石段のある場所で止まった。
ここならば商店通りのホテルにいるであろうクレドには見つからないと思ったのだ。
立ち止まったヨシュアに、キリエは首を傾げる。
こんなに何もない暗い場所で遊ぶのは無理だよ、と言おうとした。
「ホラ、握手してやるよ」
するとヨシュアは先程蹴っ飛ばした握手を次は自分から求めた。
理由は簡単である。
ただ彼女の体に触れて、クレドに関する記憶を覗こうとしただけだ。
実に唐突なことではあったが、キリエはそれに嬉しくなり、ヨシュアの顔を見上げてからすぐにその手を取った。
「わたしと友達になってくれて、ありがとう」
ふんわりと、どんな悪人でも毒気を抜かれるような笑顔を浮かべられたヨシュアは、一瞬ドキリと初心な少年のように戸惑ってしまったが、すぐに自分のパンドラを使った。
彼女の中のクレドを見るために。
ヨシュアはニヤリと笑い、自分がもうすぐ殺す男の顔を思い浮かべた。
――これで、あの男の弱味が握れる。
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