Crime ‐ 犯行 ‐

3/11
前へ
/155ページ
次へ
 ヨシュアは自分はパンドラの操作が上手いと自負している。  クレドのような無のパンドラ相手には無効だが、どんな記憶でも好きなように操作してきた。  相手の記憶ごと抜き取ったり、細かく改ざんしたり、はたまた覗くだけだったり。  小さな頃から共に育ってきたパンドラは最早彼の体の一部だといっても過言ではないし、パンドラのない生活なんてものも想像できない。  だからヨシュアは、この異常な状態に目を見開いた。 「……」  ――キリエの記憶が、何一つ見えない。  今まで全くなかったケースに、ヨシュアは戸惑うだけで、どうすればいいのかわからなくなった。  パンドラの制御ができなかった幼少期は、嫌でも周囲の記憶が見えたりしたというのに。  キリエが無のパンドラを持ってるというのなら話は別だが、無のパンドラは数少ないパンドラの中でも相当珍しいもので、早々いるものではないのだ。  だから彼女にその可能性はないと断言できた。 「……ヨシュア?」  キリエはずっと自分の手を握って、何かに驚いているらしいヨシュアを不思議に思い、声をかける。  それでも彼は何も反応はせず、ただ唖然としていた。 「どうしたの? どこか具合がわるいの?」  可愛らしくも綺麗な声は、なんと心地好いのかと一瞬でも思ったヨシュアだったが、今のこの訳のわからない状況ではそれがただ鬱陶しかった。 「……んだよ、コレ……」  ギリッと歯ぎしりをして、小さな手を握る握力を強める。  キリエはその痛みに顔を顰めて、「いたいよ」と言う。  けれどもヨシュアが離す気配はない。 「ヨシュア、いたいっ!」  彼女は思い切り手を振り払おうとした。  いや、実際そうしたのだが結果は変わらず、それどころか、逆に物凄い力でその手を引っ張られたのだ。  ヨシュアは力加減もせずに小さな体を、石段の三段目に叩き付けた。    背中を打ち付けたキリエは瞬間目を見開いて、次に苦しそうに咳き込んだ。  幸い頭は打たなかったが、それでも体は痛かった。
/155ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加