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よく見てきた死に際の顔に、ヨシュアはここまでかと考えた。
せっかくの手掛かりも役立たずに終わってしまったことに腹が立った。
この自分がこんな子供っぽい少女と接触したのに何の意味もなかったことに、酷くイラついた。
クレドを潰す唯一の手掛かりはこのキリエだけだったのだ。
「もういらねーわお前。死ねよ」
このまま同じ力で絞め続けても、少女は間もなく息絶える。
けれどもヨシュアはまた両手に力を込めた。
――その時だった。
今までずっとパンドラを使い続けても何一つ影すら見えなかったというのに、いきなりヨシュアの脳裏に様々な景色が一気に流れ込んできたのだ。
本当に唐突なことに驚いて両手の力が緩む。
ヨシュアがまず最初に見たのは、小さな少年と少女が雪景色にはしゃいでいる場面だった。
次に見えたのもやはり雪景色に、少年が泣きじゃくる少女に口付けた場面。
不安そうな表情の少女が大きな城に迎えられた場面。
そして――。
「……っ!」
ヨシュアは思わず咄嗟に、キリエの首から手を離した。
その自分の手が情けなくガタガタと震えていた。
流れ込んできた記憶にヨシュアは目を見開き、自分の下で激しく咳き込む少女を茫然と見た。
相手の記憶を見た時、否が応でもその記憶とヨシュアの精神はシンクロするようになっている。
悲惨なものも今まで見てきたが、彼はかつてない程に感情に飲まれそうだった。
「お前……」
ヨシュアは数秒そのままキリエを見詰め、再度、恐る恐る手を伸ばした。
けれどもそれは叶わず。
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